上場企業会計基準による自己診断の勧め

上場企業の子会社になった時、親会社の会計基準をそのまま適用することになった。
それまでは、日本公認会計士協会等が定めた「中小企業の会計に関する指針」に沿って財務諸表を作成していたが、次の2つの点が大きく変わった。

(1) 在庫評価
POS導入後、原価法(=仕入価格)による在庫評価を行ってきたが、半年毎に在庫の評価替を次の方法で行うことになった。
① 売価が原価を下回った時は、原価を売価まで引き下げて評価する。
② 1年以上経過した季節商品(定番品でないもの)は、社内で評価替えの基準を定めて(監査法人の了解を得た上で)、基準通りの評価替えを実施する。
この内、①は法人税法でも認められていて経費になり、現在の「中小企業の会計に関する指針」にもある。
②は中小企業会計にはなく、上場会社特有の基準で、当期の経費にはならない。

(2) 店舗の減損
店舗の減損とは、赤字店舗について将来投資回収が見込めない資産はゼロ評価とし、減損損失を計上することだ。赤字店舗の基準は「2期連続赤字で収益回復の見込みがない店」で、例えばショッピングセンターの店舗が赤字店に該当すると、店舗の内装費用は全額減損損失の対象となり、減損後は簿価0となる。店舗の減損は中小企業会計にはなく、法人税法上も当期の経費にはならない。

このような会計基準のため、上場会社は赤字決算を続けると、損失幅が大きくなる。在庫評価は売上原価に計上されるので外部からはわかりにくいが、店舗の減損は決算短信や有価証券報告書でわかる。
例えば、㈱ジーフットは平成31年2月期に20億円を超える減損損失を計上し、大幅赤字の一因になっている。㈱アマガサ(平成31年1月期)は店舗だけでなく本社の減損も行ったため6億円を超える減損損失を計上して大幅赤字となり、「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在しております」との注記がなされるに至った。

上場会社の会計基準は投資家のための時価評価で、中小企業には向かない、というのが自分の持論だが、中小企業の方にも、こういう視点で自己診断してみることをお勧めしたい
最近でも㈱タケヤが民事再生手続の申立を行ったが、業績が悪くなり始めた時に、このような見方を取り入れていれば、赤字店の閉鎖を早めて、今回のような事態には至らなかったかもしれない、と思ったりもする。